― 国会講演内容 ―

 私は、埼玉県さいたま市(旧 浦和市)で学校法人 鳥海学園を運営する鳥海と申します。今から17年前。小学校四年生で登校拒否に陥った少女に出会い、以後、17年間不登校の児童を専門にお預かりする学校を運営しております。
 当時の風潮として「生徒が学校に登校する事は当然の事」として考えられ、登校拒否に陥った本人も両親も、地域社会の中で白眼視され肩身の狭い思いをし、学校もその事実を否定し、隠そうとする傾向がありました。しかし、徐々に登校拒否という生徒の現象が単に本人の適応力の欠如という事だけではなく、教育の現場や社会の価値観・家庭内にも問題があるのではないかと考えられ、国や省庁をはじめ教育の現場や家庭でも社会問題として取り上げられる様になり、『登校拒否』という言葉から『不登校』という言葉に置き換えられました。問題を抱える生徒に対する意識は大幅に変わりましたが、現実には不登校の生徒は増加し続け、平成13年度の全国の不登校生徒は関係省庁が発表した資料からも13万人を超えていることは明らかです。
 私の運営する学校の生徒数は現在85名ですが、その8〜9割は不登校経験を持ちます。不登校になる時期も小学1年生・4年生・中学1年生・3年生と個々によって様々であり、抱える問題の深さや心に負った傷の深さも異なります。軽度の生徒は入学と同時に生活のリズムを取り戻し、明るく登校を始めます。これは長年に渡り試行錯誤しながら積み重ねてきたカリキュラムの進め方や対応の仕方が功を成しているものと思います。しかし、全体の2割程の生徒は心を閉ざしたり、不登校を続けようとします。最初は電話による連絡や訪問。関心や興味のある授業のみの参加・呼び掛け等を通して、負担や強制を感じさせない様に、注意深く時間をかけ接触を図ります。週に一度か二度登校するまでに半年も一年もかかる生徒も居ります。また、登校をしても誰とも言葉を交わさない生徒やリストカットの傷跡を残している生徒も居ります。この様な生徒はほんの僅かな言葉のニュアンスの異なりからも、再び心を閉ざしてしまいます。本校の職員は従来の教職という役割の他に、カウンセラーという役割をも果たさなければならないのが現実です。しかし、この事は本校の職員だけの問題とは考えられないのです。何故なら、不登校になる原因の一つに現場教師の不注意な言葉や思いやりの無い対応があるからです。最近では大学における教職課程で児童心理やカウンセラーとしての必要が認識され、履修単位も増やされてはおりますが、教育の現場にはより専門的なスクールカウンセラーの養成が急務であると思います。

 本校の教員採用試験に『友達』の『だち』が書けず、又、『進学』を『針学』と書くような人物が教職免許を持ち応募をしてきます。この様な人物が大学で児童心理学やカウンセリングに関する学問を習得してきたとは考えられません。教育は国家の将来を支える礎を育むという大きな役割がある筈です。全ての大学が安易に教職免許を発行しているとは思いませんが、一部の大学では本来の教育の重要性を理解せずに資格を与えていることも事実だと思います。また、高度な専門知識を習得していても、常識や協調性に欠ける人物も多く居ります。
 そこで、本校では独自にスクールカウンセラーの養成を始めました。しかし、現在の日本という社会システムの中で、公的に認められた資格は『臨床心理士』以外には無く、その職務は広く、人員も社会のニーズに答えられているとは思えません。本校の様に不登校の生徒を受け入れている学校としては、国の制度が整備されるのを待っているという訳にはいかないのです。また、年々増え続ける不登校生達のことを考えると、教育界全体としてもカウンセラー養成の制度確立は急務のこととして考えて頂きたいと思います。

 本校のカウンセラー養成は対象を児童・生徒の範囲と定め、在籍する生徒達との交流を通して実践と理論を学習することを目的とし、受講に際しては感性と資質を重視し、受講の選択を厳しく制限しております。本来、カウンセラーは悩みを抱える人と信頼関係を築きながら、ゆっくりと悩みから自主的に開放される支えとなることであると思います。この過程において軽率な言葉や対応は、悩みを抱える人の『命』を奪ってしまうという責任ある役割を果たさなければならないと考えるからです。本校の様に、在籍する生徒の8割〜9割が不登校の経験を持つという状況の中で、個々の苦悩を謙虚に受け止め、豊かな感性と資質を有する者が専門の知識と経験を積むことで、有能なカウンセラーを養成できるものと確信しております。

平成13年11月15日

  学校法人 鳥海学園
    理事長 鳥海 喜久夫